Wa-luck(ワラック)

2020.3.26
スポーツ

サッカー日本代表(みんなが知ってるスポーツ選手のめっちゃいい話 -vol.5-)

大望青年会スポーツ選手のめっちゃいい話


(天理教青年会より)
 

サッカー日本代表


 
ひょっとして、一番安堵しているのは日大の関係者かもしれない。
 
前回、「一月経ってもまだ続いてたりして」と書いた日大アメフト部を巡る大騒動は、連日ロシアから届くニュースにあっという間にかき消されてしまった。
 
アメフトからサッカーへ。これほどまでに違うスポーツの、これほどまで違う質のニュースをまったく同じ熱量で取り上げ、そこに熱狂できてしまう日本人ってちょっと凄い。
 
この原稿を書いている時点でロシア・ワールドカップに出場している日本代表は2戦を終えたところだが、仮に第三戦のポーランドに敗れ、決勝トーナメント進出を逃したとしても、わたしの中での評価は変わらない。
 
彼らは、歴史的な偉業をなし遂げた。
 
20年前のフランス・ワールドカップに初出場をして以来、02年日韓、06年ドイツ、10年南アフリカ、14年ブラジルと、日本は連続して本大会出場を果たしてきた。日韓大会では2勝、南アフリカ大会でも2勝をあげ、アジアの中では「サッカー大国」と胸を張れる地位を築いてきた。
 
だが、それはあくまでもアジアの中での話だった。
 
ワールドカップの常連国とは見なされるようになったものの、ヨーロッパや南米における日本代表の評価は、決して芳しいものではなかった。
 
ロシア、チュニジア、カメルーン、デンマーク。日本がワールドカップで倒した国は大会の本命でもなければダークホースでもなく、しかも、結果的に勝利を収めたのは日本だったものの、相手を内容で圧倒した上でつかんだものではなかったからである。
 
サッカーの世界で第三者に感銘を与えるためには、ただ勝つだけでは足りない。点が入りにくい特性を持つこの競技では、他のスポーツであれば大差で勝敗のつく力関係があっさりとひっくり返ることがある。目の肥えたファンであれば、番狂わせに驚くことはあっても感銘を受けることはない。
 
とかく日本人は、日本が勝利を収めるたびに「世界を驚かせた!」と騒ぎたがるが、率直に言って、過去のワールドカップにおいて日本代表が日本人以外の人たちを驚かせたことはほとんどなかった。サッカーの世界ではよくあることとして、1日経てば忘れられてしまうような勝利ばかりだった。
 
わたしの知る限り、男子サッカー日本代表が、試合後にごみ拾いをする日本人サポーターと女子サッカーほどに世界を驚かせたことはない。
 
今回は違う。
 
コロンビア戦の勝利は、単にアジア勢が史上初めてあげた南米勢からの勝利というだけではない(これだけでも十分に凄いことなのだが)。日本が、アジア勢が、史上初めて内容でも南米勢を凌駕してつかんだ勝利だった。
 
これがどれほど凄いことなのか。サッカーにあまり興味のない方には、ちょっと想像がつかないかもしれない。
 
南米は、サッカーの大陸であるとも言われている。貧しい家庭に生まれた少年にとって、サッカーは社会でのしあがっていくための唯一といってもいい手段でもあるからだ。
 
多くのクラブでは毎週のようにローティーンを対象としてオーディションが行われ、新たな合格者が生まれるたび、誰かがクラブを追われていく。
 
極東アジアの厳しい学歴偏重社会が受験業界を活性化し、また世界最高レベルの不正手段(カンニング)を育んでしまったように、南米のサッカーは常に活力に満ち、激しい生存競争を生き抜いた者は「マリーシア」と言われる狡賢さを身につけることとなった。
 
そんな彼らにとって、日本は経済大国ではあっても、サッカーの世界においては単なるポッと出の後進国でしかない。
 
遅れてやってきた金持ちのボンボンは、絶対に負けたくない、いや、負けてはいけない存在である。
 
仮に、万が一負けるようなことがあっても、それはラッキーパンチ1発に沈むような、不運をはっきりと自覚できるものでなければならない。
 
開始早々にPKを奪われたばかりか、1人退場者を出してしまったコロンビアは、間違いなく不運ではあった。
 
だが、日本ごとき相手であれば、たとえ10人になろうとも倒さなければならないと考えるのが、南米の人たちの一般的な感覚である。
 
実際、前半のコロンビアは1人少ないことを感じさせないサッカーを展開し、あっさりと同点に追いついて見せた。
 
ところが、後半に入ると試合の様相は一変した。日本は突如として自信に溢れたサッカーを展開するようになり、コロンビアを自陣深くに追いやることになる。これは、88年前にウルグアイで始まったワールドカップの歴史の中で、初めて起きた展開だった。
 

 
日本は、本当に世界を驚かせたのである。
 
続くセネガル戦でも、日本の戦いぶりは日本人以外の人にも感銘を与えた。イタリアのスーパースターだったデル・ピエロさんは、自らのブログに「侍は決して諦めない」と驚きを綴った。
 
サッカーというスポーツにおいて、先制点の持つ意味は重い。大舞台となればなおのこと重い。さほどに重要な先制点を日本はGKのミスという最悪の形で奪われながらも追いつき、突き放されてもまた追いついた。
 
こんなことができる国は、多くない。
 
第三戦のポーランド戦に敗れれば、日本代表のロシアでの冒険は終わる可能性がある。だが、どんな結果が待っていようとも、今回の日本代表がなし遂げたことに関して、わたしは全面的に賛辞を贈りたいと思っている。
 
今回のワールドカップで、日本代表は日本サッカー史上初めて世界を驚かせ、史上初めて日本代表と日本という国のイメージを同調させたのだ。
 
辺境の弱小国でしかなかったサッカー界の日本だが、これからは緻密、勤勉、規律、不屈といった日本という国自体が勝ち得てきたポジティブなイメージをまとって戦うことができる。
 
ただ勝っただけでなく、内容を伴った勝利を収めたことで、時代は動いたのだ。
 
16年前の日韓ワールドカップが終わった時、わたしは「死ぬまでにワールドカップで優勝する日本が見たい。きっと見られる」と書いたことがある。
 
その思いは、いまいよいよ高まってきている。

 
(かねこ たつひと)
 

金子達仁 プロフィール
1966年、神奈川県生まれ。スポーツライター。法政大学社会学部を卒業後、日本スポーツ企画出版社に入社。『スマッシュ』『サッカーダイジェスト』編集部を経て、95年にフリーとなる。主著に『28年目のハーフタイム』(文春文庫)、『ラスト・ワン』(日本実業出版社)など多数。最新刊に『プライド』(幻冬舎)がある。

 

 

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