Wa-luck(ワラック)

2020.2.20
スポーツ

みんなが知ってるスポーツ選手のめっちゃいい話 -vol.4-

大望青年会スポーツ選手のめっちゃいい話


(天理教青年会より)

日大 アメフト部


どう、思います?

果たしてどれほどの数なのかは見当もつかないが、評論家、ジャーナリスト、OB、新聞記者、そしてスポーツライター……とにかくスポーツの世界に関わっている人のほぼすべてが、聞かれたはずである。

「アメフトの問題、どう思います?」

わたしの場合、ほとんどが友人、知人からの質問だったから、聞いてくる側はこちらがアメフト門外漢であることは重々承知である。それでも聞いてくるのだから、よほどのことなのだろう。日本におけるアメフトという競技の人気、認知度を考えると、驚くべき現象というしかない。

「何か狙いがあるのかと思った」

素人がえらそうに解説するのもどうかと思うので、最初のうち、わたしはそう答えていた。日大サイドのやっていることが、確信犯の炎上商法というか、世間を、関学を激怒させよう、逆上させようと狙っているとしか思えないからである。

だって、当該選手の記者会見のあとの監督、コーチの責任転嫁ぶりとか、元共同通信の記者だという広報担当の方がやらかした驚愕の暴走ぶりとか。ありえないでしょう。心の中ではペロッと舌を出していようが、とりあえず神妙な顔で頭を下げておけば何とかなってしまうことが多いこの国で、日本大学の上層部はどうしてしまったのか。

いやまさか、考えもなしにやるはずはない。なぜって、日大といえば、日本には数少ない危機管理学部を有している総合ユニバーシティなのだ。きっと、自らの危機的状況を煽るだけ煽っておいて、土壇場で最新鋭の危機管理学に基づく解決策をバーンと出してくる。リアル水戸黄門。最後の最後で痛快無比のどんでん返し。リアル半沢直樹。だとしたら凄いぞ日大、凄すぎる。

実を言えば、この予想というか願望というか、日大が深謀遠慮に基づいて動き、結果いまのところ世間を激怒させてしまっているという説、18年5月下旬現在のわたしはまだ捨てきれていない。いくらなんでも、教育者を名乗る方が、巨大大学の中枢にいる方が、選手たちの間で絶対権力者として君臨していた方が、こんなにも醜悪だなんて、さすがにちょっと認めたくないのである。というか、若い人たちに「オトナは汚い」と強烈な刷り込みをしかねない今回の事件を、同じオトナの一員として受け入れがたいところがあるのかもしれない。

ちょっと真面目に自分なりの見解を述べさせていただくと、多くの人が重要視している「内田監督が指示をしたかどうか」という点、わたしはどうでもいいと思っている。本人にその気がなくても、部下の女性が「そうだ」と感じたらそれは「セクハラ」。だとしたら、明らかに権力をバックにした内田監督の指示は、たとえ本人にその気がなかろうとも、選手の側が「そうだ」と受け止めてしまった時点で「パワハラ」─ギルティである。

ただ、外野からこの“事件”を眺めていると、ある種の怖さや気味悪さのようなものも感じる。

いささか不謹慎なたとえになるが、仮にわたしが交通事故を起こした場合、罪を決定する最大の要因は結果である。つまり、誰かの命を奪ってしまったか。それとも、軽い怪我ですんだのか。同じスピードで、同じ道路で、同じような理由で起こした事故であっても、結果によって罪状は違ってくる。

今回、日大アメフト部の起こした“事件”は極めて悪質で根深いものではあるものの、本当に幸いなことに、大事には至らなかった。

にもかかわらず、世間の、マスコミの日大を巡る扱いは、実刑判決を受けた凶悪犯に対するもの、いやそれ以上の容赦のなさになってしまっている。それこそ、容疑者の人権に対する配慮が皆無だった時代のように。

これから先はどうなるかわからないが、現時点での内田監督は、断じて犯罪者ではないのだけれど。

そもそも、内田監督と日大のやり方は、今年に入って急におかしくなったのではないはずである。甲子園ボウルを制した昨年も、おそらくは同じ指導法、同じ哲学に貫かれていたはず。だとしたら、それを間近で見ていたメディアはなかったのか。去年は座視しておきながら、いざ事が起きると手のひらを返してバッシングする側に回ったということなのか。わたしの知る限り、ついこの間まで、内田監督の指導法は「厳しさ」という表現でむしろ称賛されていたのだが。

もう一つある。去年、日大は久しぶりにタイトルを獲った。つまり、成功した。その手法を学び、模倣し、自らも「第二の日大」になろうとした大学は皆無だったのか。事件発覚後、日大を指弾し始めた関東の大学に、日大と似た指導スタイルを取り入れていたところはなかったのか。

なかった、断じてなかったというのであれば、まだ救われる。日大だけが悪で、あとは善。非常にステレオタイプで、いささかおめでたすぎる気もするが、まあ、いい。きっと、本物の義憤に駆られて日大を非難、批判しているのだろうから。

日大アメフト部のスタイルが、この国において完全に時代錯誤であり、他大学はもちろんのこと、日本社会において抹殺、撲滅されようとしているのだというのであれば。

上司からの命令で、ありとあらゆる手段を使ってそれを達成しなければいけないサラリーマンなど存在せず、自分の意見や信念が組織のそれにねじ曲げられることなど断じてない国。それが日本だというのであれば。

どう、思います?

わたしは、日大のやり方はおかしいと思う。一方で、日大のやり方を擁護する人がまるで出てこないのも、おかしいと思う。擁護したい人が自分の意見を口にするのが憚られてしまうような社会の空気は、もっとおかしいと思う。

今回の問題がこれほど日本人にとっての一大事となったのは、多くの人が、日大のやり方に嫌悪感を覚えつつ、しかし自分の周りにも存在していることを知っているからではないか、とわたしは思う。つまりは身近。つまりは他人ごとのようで他人ごとじゃない─。日大アメフト部は日本社会の縮図。社会を変えるのは大変だけど、もしかしたら、スポーツの世界なら。大騒ぎの根底にあるのがそんな感情だとしたら、この騒動、来月になってもまだ続いていたりして。

(かねこ たつひと)
金子達仁 プロフィール
1966年、神奈川県生まれ。スポーツライター。法政大学社会学部を卒業後、日本スポーツ企画出版社に入社。『スマッシュ』『サッカーダイジェスト』編集部を経て、95年にフリーとなる。主著に『28年目のハーフタイム』(文春文庫)、『ラスト・ワン』(日本実業出版社)など多数。最新刊に『プライド』(幻冬舎)がある。

 

 

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