Wa-luck(ワラック)

2019.5.8
おたすけ

「聞き屋」に挑む男たち

青年会あらきとうりようにをいがけ

前で「あなたのお話聞かせてください」と書かれた看板を掲げ、道行く人の話に耳を傾ける。お代は無料。俗に「聞き屋」と呼ばれるこの慈善活動が、一部で盛んに行われている。聞き屋は、東日本大震災で被災した方々の心のケアサポートの一貫として始まったといわれる。現在では、お道の中でも、新たな布教のスタイルとして聞き屋の活動に取り組む若者が増えている。今回、新たな形のにをいがけに取り組む二人の青年会員を取材した。一人目は南原善行さん(三十五歳)。彼は、三年前にある理由をきっかけに聞き屋を始めたという。福岡県小倉駅で聞き屋をする南原さんに会いに行った。

聞きだすけ

年の年の瀬、京都駅から山陽新幹線に揺られること五時間、福岡県の小倉駅に着いた。この日は気温が低く、道行く人々の吐く息は白い。改札から続くスロープをしばらく歩くと、祇園太鼓像が見える。その横に南原さんの姿があった。

「こんばんは。寒い中、ご苦労様です。よかったらこれどうぞ」

爽やかな笑顔で買い物袋からカイロを取り出し、こちらを気遣う姿から人柄の良さが垣間見える。
南原さんが座る腰掛けの前には、大きなハートマークの中に「聞き屋 あなたのお話聞かせてください 街の無料相談室」と書かれた看板が立てかけられている。その他には、電池式ランタンとキャンプ用の椅子が三つ。聞き屋を始めたのは三年前。月に一、二回の頻度で毎回同じ場所で開いている。これまで二百人以上が足を止めてくれたという。

南原さんは十年前に「布教の家」福岡寮を卒寮後、大分市で三年ほど単独布教に励んだ。その後は、部内教会を拠点に毎日布教に歩いている。以前は、「布教師は足を運んでなんぼ」との信念でひたすら戸別訪問を続けてきた。そんな南原さんが、なぜ聞き屋という新たな形のにをいがけに挑戦しようと思ったのか。その経緯を伺った。

「大きな転機になったのは、結婚と子供を授けていただいたことです。独身の頃は、自分のペースで好きなときに布教に出ていましたが、だんだん教会の御用と子育てが忙しくなり、日中にをいがけに出られる時間がなくなっていきました。どうすればにをいがけに出る時間を取れるのか考えた末に、子供が寝静まった後、自分自身の睡眠時間をお供えすることにしたんです」

しかし、夜間は戸別訪問はおろか、人通りの多い小倉駅前での神名流しや路傍講演は止められることが多く、思うようににをいがけができなかったという。
どういう形でなら夜間布教ができるのか模索していたところ、「聞き屋」という活動を知った。「これなら夜の小倉駅でも布教ができるのではないか」。南原さんは、取り組みを始めてからすぐに、それまでの布教との違いを感じたという。

「聞き屋に来る人から聞く話はどれも、戸別訪問で出会ってから五、六回足を運び、ようやく信頼を得られた頃に打ち明けられるような内容だったんです。例えば、癌を告知されて生きる希望がないという身上の話や、不倫をしてしまい家族が崩壊寸前という家庭内事情の話までありました。これには驚きました」

戸別訪問や路傍講演はこちらのアプローチから始まるのに対して、聞き屋は悩みを聞いてもらいたいという相手側のアプローチから始まる。言わば、出会った直後からおたすけが始まるのだ。初めからこうした繋がりが持てるのは非常に大きいと南原さんは話す。また、「聞く」ことの大切さを目の当たりにしているという。

「これまでさまざまな方が相談に来られました。悩みは千差万別ですが、どんな悩みを抱えた人でも、こちらがおたすけの心で親身に耳を傾けていると、帰る頃にはすっきりした顔になってくれます。聞きだすけと言いますか、聞くことも大切なおたすけだと感じています」

おたすけの心で、南原さんは今日も小倉駅で聞き屋を開く。

 

トライアル&エラー

原さんに影響を受けて聞き屋を始めた若者は少なくない。大啓分教会長・梅原浩司さん(三十七歳)もその一人だ。一年前、南原さんのフェイスブックを見て、初めて聞き屋の存在を知り、早速連絡を取ったという。十二月某日、梅原さんの聞き屋を訪ねた。
待ち合わせ場所は、京阪神の大動脈・阪急電鉄梅田駅から二つ目の十三駅。京都、神戸、宝塚への分岐点である淀川区十三は歓楽街として名をはせており、改札を抜けると目の前に飲み屋がズラリと立ち並ぶ。梅原さんは、教会長仲間である阪神分教会長・北山藤成さん(三十一歳)と共に現れた。聞き屋を行う際は、必ず二人一組で活動しているという。

「一人だと、何となく近寄りにくいと思うんです。でも、二人であれば会話をしながら楽しい雰囲気をつくれるし、こちらも寂しくないので一石二鳥。楽しげなほうが立ち寄ってもらいやすいに決まってますから」

梅原さんがいつも聞き屋を開いているのは、駅から少し外れた横断歩道の手前。現場に着くと早速看板を立てかけ、行き交う人たちに向かって「無料でお話聞かせていただきます。愚痴や相談事、何でも聞かせていただきます」と呼びかけ始めた。

「たとえ興味を持ってもらえたとしても、こちらが声をかけないと足を止めづらいと思うんです。お店も『いらっしゃいませ』と言って客引きするでしょう。それと同じようなものです。それだけでも随分反応が違うものですよ」

二人一組での活動や声かけなど、梅原さんの行う聞き屋には、随所に相手の立場に立った工夫が見られる。これらは毎回課題を見つけ、その都度、改善していった結果だという。「今日は時間がないから、今度いつやるか教えてほしい」と言われれば、次回からは次の開催日を必ず決めて対応できるようにした。また、より多くの人を求めて、歩行者の多い日中の梅田駅で試したこともある。しかし、そのときは誰からも見向きされなかったという。この経験から、「昼間はそれぞれに目的がある」「人が多すぎると立ち寄りにくい」ということが分かり、それ以降、必ず繁華な所から少し外れた場所を活動拠点とし、夕方以降に実施しているという。

始めてから半年ほど経ちますが、毎回二時間の活動で、平均五人程度の方が利用してくれます。でも、最初からうまくいったわけではありません。何とか充実させようと、活動後は必ず相方と反省会をして、次回策を練り合いました。そして次回の活動での反応を見て、また反省、という繰り返しです。心がけているのは、『こんなことやっても意味がない』と、初めから諦めないことです。挑戦するからこそ次の段階に進むことができる。常にトライアル&エラーを繰り返すことが大切だと思います」

梅原さんが「これ見てください」と言って、名刺を差し出した。表面には「聞き屋UME」と書かれ、裏面にはLINE@のQRコードが印字してある。聞き屋が軌道に乗ってくるにつれて、リピーターから連絡先を聞かれることが増えてきたため、専用のLINE@をつくったのだという。今ではそれを活用して、開催日を告知したり、悩みの相談に乗ったりしている。

「声をかけたときに興味を持ってくれた人や、立ち寄ってくれた人には、名刺をお渡ししています。その後の登録は個人に任せていますが、LINE@の登録者は十人になりました。これによって、いつでも相談を受けることができますから、今後おたすけにも発展していきそうです」
挑戦し、失敗から学んで、また新たな挑戦をする。梅原さんの聞き屋は、小さな挑戦の積み重ねの上に成り立っているのだ。