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2019.10.1
オススメ 信仰エッセイ 子育て

ウッジョブ(枝と根 -vol.3-)〜母の日〜

大望青年会枝と根

ウッジョブ

 

(天理教幅下大教会長・伊藤 芳正)


 
 

第三回 母の日

このよのぢいとてんとをかたどりて
  ふうふをこしらへきたるでな」

 
 天地創造に込められた親神様の深いお計らいをお教えいただく、みかぐらうた第二節の地歌である。地の理を女、天の理を男として仕込んで下さったゆえに、子供にとって母親は、大地のように身近で、その温かい愛情を感じる安心の存在。対して父親は、天空という遠く距離を置いたところから包み込む存在。
 
 この違いを、毎年5月の母の日と6月の父の日に否応なしに味わう。私は父の日に、何か子供から感謝してもらった思い出はない。そして私自身も、母の日に感謝を形にした思い出はあっても、父親に向かって何かした記憶はないのだから、自業自得の話でもある……。
 
 我が家は娘4人をお与えいただいた。長女、次女が年子で産まれ、5年の間をおいて下2人の娘がいる。子供たちは自然と上2人と下2人がつるむようになっていた。三女の佳乃が6歳、四女の真子が4歳のときの母の日の出来事である。
 
 母親へのプレゼントの品を準備する姉2人に、佳乃が「お姉ちゃん、母の日のプレゼントでしょ? 私たちも仲間に入れて」と言ったが、姉2人から「お小遣い出してないからダメ」と断られた。しかし、小学一年ともなれば佳乃も負けてはいない。妹の手を引いて祖母のもとへと向かい、「おばあちゃん、今日は母の日だよ。学校の先生が、母の日は子供がお母さんにプレゼントする日だと言っていたよ。お買い物するのにお金がいるでしょ。お金ちょうだい」と必死に訴えた。孫の一生懸命な姿を見た祖母は、五百円玉硬貨をそっと一つ握らせた。
 

 
 
 佳乃は妹に、「今日は、お母さんをびっくりさせてあげるんだから、内緒でお出かけするよ」と言って、こっそりとプレゼントを買いに出かけた。母の日の初めてのプレゼントは、やはりお決まりのカーネーション。幼い2人は、子供の足で1時間余りもかかるスーパーを目指した。
 
 昼間はとても穏やかな天候であったが、夕方から大雨になり、雷まで鳴り始めた。教会では、突然の嵐に洗濯物を取り込んだり、窓を閉めたりと大慌て。そのうち妻が「あれ、佳乃と真子がいない。黙って出かけることはないのに……」と、娘たちの不在に気が付いた。みんなで教会中を探したが見つからない。
 
 
 暗くなっても雨は降りやまない。妻の心配も次第に膨らみ、友達の家に電話をかけたり、雨で増水した最寄りの川沿いを探しに行ったりと、不安な時間が3時間ほど経ったころ、「佳乃と真子、帰ってきましたよ!」との誰かの声。夫婦揃って玄関に飛び出した。するとそこには、ずぶ濡れになって泣きじゃくる娘たちがいた。
 
「あーよかった」と私は安心したのだが、妻の感情は複雑である。「黙って出て行って、どこ行ってたの!」と家に帰っても大変なカミナリ。「すぐに服を脱ぎなさい!」と、さらに一喝。真子は泣きながらその場ですっぽんぽんになったが、佳乃はなぜか脱がない。片腕をトレーナーの裾に潜らせたまま泣いている。「強情な子だね!」と、妻は佳乃のトレーナーの裾に手をかけ、一気に脱がせた。その反動で佳乃の腕は跳ね上がり、一輪のカーネーションが宙に舞い、私どもの足下に落ちた。茎の折れたカーネーションには、「お母さん、いつも育ててくれてありがとう」と書かれた短冊が結ばれてあった。おそらくこれだけは濡らすまいと、激しい雨の中もずっと握りしめていたのだろう。
 
 この時、娘の思惑にやっと気付いた妻は、茎の折れたカーネーションに涙して、「バカだね」と娘を抱きしめた。
 
 妻は冷え切った幼子に風邪を引かせてはならないと、手を引きながら私に、「茎、直しておいてよ!」という一言を残して、風呂場に駆け込んで行った。もちろん私は妻の仰せのままに、セロテープで折れた茎をつなぎ、一輪挿しに飾った。その夜、一輪挿しのカーネーションを囲み、家族はなんとも温かく豊かな思いに包まれた。
 

 
 
 明朝、私は娘たちに、「お母さん、二つのプレゼントを抱きしめて泣いて喜んでいたよ」と告げると、子供たちは、「やったー!」と、満足気な表情で学校に向かった。
 

 尽くす心を持った人の周りには、温かく豊かな思いが溢れる。そして、本当の豊かさとは、尽くしきった人の心にみなぎることを、幼い子供たちから教えられた。
 

(いとう よしまさ)

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