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2019.9.22
カルチャー

BREXITとラグビー・アイルランドチーム

天理時報天理大学宗教から見た世界

島田 勝巳天理大学宗教学科教授


英国の欧州連合(EU)離脱(BREXIT)の問題については、本コラム(2月3日号)でも取り上げた。それから半年以上経た現在、事態はさらに混迷の度を増している。
この迷走の主要因が、英国領の北アイルランド地域とアイルランド共和国との国境問題だ。プロテスタント系の北アイルランドと、カトリック系のアイルランド共和国との間には、1960年代末以降、「北アイルランド紛争」と呼ばれる苛烈な対立が長く続いたが、98年の「ベルファスト合意」によって、ようやく和解に漕ぎつけた。
ところが、今回の英国のEU離脱決定は、両国が地続きながらも、再び異なる経済圏に分かれることを意味する。メイ前首相は、両国の国境に物理的な壁が再び建設されることを回避する離脱協定案を議会に諮ったものの、これをめぐる与党内の対立が先鋭化し、結局、今年6月、辞任に追い込まれた。一方、後継のジョンソン首相は、10月末までの離脱方針を強く掲げ、「合意なき離脱」も辞さない構えだ。
ところで今月、日本を舞台にラグビーワールドカップが開催される。興味深いことに、世界ランク1位のアイルランド代表は、伝統に従って国境を越えた〝統一チーム〟として、北アイルランドと共に出場する。英国領3カ国(イングランド・ウェールズ・スコットランド)と並び、その雄姿が  国内政治の混迷をよそに  全世界の注目を浴びようとしているのは皮肉なことである。
アイルランド研究者の海老島均によれば、これにも曲折があったようだ。アイルランド人選手の多くはカトリック教徒であるのに対し、北アイルランドの選手はほぼ全員がプロテスタントであることから、試合前に斉唱されるアイルランド国歌に違和感を覚える北アイルランド出身選手も少なくなかったらしい。そこで、国歌に代わる代表アンセムとして、「アイルランド・コール」が95年のワールドカップから歌われるようになった。
この大会が、南アフリカで開催されたことは偶然ではないだろう。それは、ネルソン・マンデラ大統領の期待を背負った南アフリカがニュージーランドを破り、初優勝を果たした大会だった。
スポーツは、政治的に〝悪用〟されることもあれば、逆に政治的・宗教的な対立を乗り越える手段にもなり得る。今大会で「アイルランド・コール」が斉唱されるとき、それはアイルランドと英国民に、さらには世界に、真の〝ノーサイドの精神〟を響かせてくれるのだろうか。

天理時報2019年9月15日号掲載